「公務員=安定」というイメージは社会に浸透しています。しかし、現場で働くと 長期休職者やメンタル不調者が想像以上に多い という現実に直面します。本記事では、まず公的データから休職実態を整理し、次に筆者の実体験に基づいて、公務員が“絶対安定”とは言えない理由についてまとめました。
データで読み解く休職の実態
国家・地方・民間の比較
区分 | 対象年度 | 休職者数(長期※) | 母数 | 休職率 | 主因 | 資料 |
---|---|---|---|---|---|---|
国家公務員 | 令和3年度 | 約6,500人 | 約28万人 | 2.3% | 精神疾患 72% | 人事院『公務員白書』 |
地方公務員 | 令和4年度 | 2,142人/10万人※ | 約276万人 | 2.1% | 精神疾患 76% | 地方公務員安全衛生推進協会 |
民間企業 | 令和4年度 | 非公開(推定約15万人) | 約4,000万人 | 0.4% | 精神疾患 60% | 厚労省『労働安全衛生調査』 |
※長期休職=1か月以上の病気休暇・休職。地方公務員は人口10万人あたりの人数で公表されているため、全国職員数から休職率を試算しています。
◯数字のポイント
・国家・地方公務員は民間の約5倍の休職率。特に精神疾患が主因。
・過去10年で地方公務員の精神疾患休職は 約1.8倍 に増加。民間は横ばい。
・30代後半〜40代前半の中堅層で増加が顕著。責任と部下指導の板挟みが要因と分析される。
繁忙部署と休職率の相関
- 生活保護・児童福祉・税務・ICT推進などの部署で残業月60h超が常態化。
- 人事院の部署別調査では、残業月45h超の職員はそうでない職員の1.6倍 の確率でメンタル休職経験あり。
休職したらどうなるのか
別部署への異動と業務軽減
休職からの復帰時に最も議論されるのが「別部署へ異動して負荷を下げる」措置です。ところが、異動は必ずしも希望どおりに行えるわけではなく、タイミングや人員状況によってはすぐに実現しない というのが実情です。
私が在籍していた庁舎では、半年に1人ほどのペースで休職者が出ていました。復帰プランとして人事から提示されるのは主に
- 同じ部署で業務量を減らして様子を見る
- 別部署へ異動して軽い業務に就く
の2択でした。しかし(2)は異動先の受け入れ体制が整っていないと実行できず、実際には 復帰直前で「異動が間に合わない」と判断されるケースが多い という状況でした。その結果、復帰者は元の部署で業務を軽減してもらうものの、繁忙期に入ると仕事が雪だるま式に増え、再び体調を崩してしまう悪循環が発生していました。
キャリア停滞と昇進リスク
長期休職歴は人事評価で明確に減点されるわけではありませんが、管理職登用の候補から外れやすいのが実情です。政令市の内部資料によれば、精神疾患で6か月以上休職した職員が管理職へ昇進した例は過去10年で3%未満でした。復帰時点で昇進試験を受ける気力が残っていない、という声もよく耳にしました。
職場の空気と再休職ループ
休職者の業務は残ったメンバーに割り当てられます。私の部署でも残業が月60時間を超えるなかで休職者の業務を肩代わりする状況が続き、復帰した人に対して厳しい視線が向けられることがありました。本人も「また迷惑をかけるかもしれない」と萎縮し、ストレスが再燃して再休職、最終的に退職へとつながるケースを複数確認しています。
筆者の体験談
地方公務員として働いていた当時、私の周囲では「数か月休んで復帰→環境が変わらず再休職→退職」というパターンが珍しくありませんでした。休職者が出るたびに残業が増え、部署全体がピリピリする。復帰後は居場所がなくなり、結局辞めてしまう。組織に残る私たちも疲弊し、休職予備軍が増えていく——そんな負のスパイラルを何度も経験しました。
真の安定は“どこで働くか”より“何ができるか”
休職リスクを経て気付いたこと
前項で触れたように、私は休職と再休職が連鎖する部署で働いていました。そこで痛感したのは、公務員という肩書きだけでは将来を保証できないという事実です。組織に居続けられるかどうかで安定が左右される働き方は、決して盤石ではありません。
スキルで広がる選択肢
長期的な安定を得るためには、組織の枠を超えて通用するスキルが必要だと考えました。私の場合は英語と会計を組み合わせた資格 USCPA(米国公認会計士) を選択し、働きながら学習を続けて合格しました。USCPAはあくまで一例ですが、取得後に監査法人へ転職できたことで、市場価値と年収が向上し、フルリモート中心の働き方も選べるようになりました。
自分で働き方を選ぶという安定
重要なのは、組織に依存しなくても仕事を得られる状態をつくることです。英語・IT・データ分析など、再現性のあるスキルなら分野は問いません。どこで働くかより、何ができるか。場所や雇用形態を柔軟に選べるようになれば、組織の事情に振り回される不安は大きく減ります。
ポイント:肩書きより能力。スキルを資産として蓄えることが、長期的なキャリアの安全装置になります。
まとめ
- 公務員の長期休職率は民間を大きく上回ります。安定と言われる職種でもこのようなデータがあります。
- 一度休職すると復職・昇進は容易ではありません。退職後の転職も長期化しがちです。
- 真の安定は 組織依存からの脱却 と 再現性のあるスキル によって得られます。小さな学習投資でも早めに始めることをおすすめします。